TPPとは何か?

アメリカ国家と多国籍企業が世界を支配する

<関係国相関図>
ASEAN 東南アジア諸国連合・参加国
RCEP  東アジア地域包括的経済連携・参加国、
TPP   環太平洋経済連携協定・参加国

TPPに関係のある5冊の図書を読み、TPPと貿易交渉の問題点をまとめました。上はTPP関連国の関係図です。5冊の本の目次、TPP関連用語も別頁に載せたので、合わせて見てください。

(1)著者紹介
まずは、鈴木宣弘、農業経済学の学者だけあってさすがに農業問題に熟知している。資料は豊富で、酪農問題の詳しさは鈴木氏の右に出るものはいない。牛乳に普通牛乳と還元乳(脱脂粉乳とバターと水から戻した原価の安い牛乳)があり、2000年の雪印乳業大阪工場で起きた集団食中毒事故はこの還元乳から起きたこと。また、日本ではスーパーなど大型小売店同士の安売り競争が激しく、小売価格のしわ寄せがメーカーや生産者に来てしまう構造があること、また、日本では120°Cないし150°Cで1~3秒の超高温殺菌乳が大半を占めていることなど、牛乳の問題点が多いことを指摘している。鈴木氏の口癖のように、『今だけ、金だけ、自分だけ』の3だけ主義を拒否し、『売り手よし、買い手よし、世間よし』の三方よしを実現してハッピーになれるのである。

次に、堤未果国際ジャーナリストとして、国連アムネスティに所属したこともある。3部作の一つの「㈱貧困大国アメリカ」を読んだが、さすがにアメリカ通である。何故「アメリカが貧困大国?」と思ったが、歴史を追っていくとよくわかる。レーガン政権(1980~)以降、農業競争力を高めるため、独占禁止法を骨抜きにして、農業従事者はどんどん統合され、アメリカ中の農家が巨大工場に再編され、その下請けになり、没落してきた。大規模家畜工場では、家畜が過密な場所に詰め込まれ、成長促進と感染防止用に大量の抗生物質の注射をうけている。また、アメリカの特筆すべき問題が「政府と・業界の癒着(回転ドア人事)」である。レーガン政権では環境庁長官と食品医薬品局長官はモンサント社の役員だった。ブッシュ政権の農務長官は元バイオ企業役員だった。クリントン政権の通商代表は元モンサント社の役員だった。日本では官から財への一方通行だが、アメリカでは双方向で移動しあい、回転ドアといわれている。

そして、山田正彦、故郷の長崎で牧場の経験があり、弁護士を経て、民主党政権で農林大臣となった。「日本の種子(たね)を守る会」を立ち上げた。コメの種子を育てる「農事試験場」に足を運び、種子生産の実態を把握している。「TPP批准の流れと一体となった種子法の廃止、種子登録制度、種子の自家増殖(採種)の禁止」が日本の食料危機となることに警告を発している。

最後に、「自由貿易は私たちを幸せにするか?」の著者。内田聖子氏は「アジア太平洋資料センター」の共同代表で国際NGOの立場で様々な運動をしている。首藤信彦氏は国際政治学者・民主党の元衆議院議員、世界貿易について精通している。上村雄彦氏は大学教授。グローバルタックス論の第一人者で、巨万の富を得て、タックスヘイブン(租税回避地)を利用し、マネーゲームを行っている多国籍企業対策として、グローバルな国際税を提案している。ローラ・ブリュッヘ氏はベルギー・ブリュッセル拠点のEUをウォッチする市民活動家。メリンダ・セント・ルイス氏はアメリカの市民運動家。ジョモ・K・スンダラム氏はマレーシアの経済学者。

(2)食料・農業に関する法改正
イ.種子法の廃止
2017年4月14日、種子法廃止法案が国会を通過した。政府の提案理由はこうだ。「国家戦略として、農業の分野でも民間の活力を最大限活用しなければならない現代、民間による優秀な種子の利用を種子法が妨げているので廃止する」と。その法案説明会を全国8ヵ所で行った 。
この種子法廃止の契機となったのが、2016年10月に行われた規制改革推進会議農業ワーキング・グループと未来投資会議の合同会合の席で、種子法廃止が提起された。その理由は、「現状の種子法は民間の品種開発意欲を阻害している」というものだった。この意向は2016年11月に政府が決定した「農業競争力強化プログラム」に引き継がれ、2017年4月「主要農作物種子法を廃止する法律案」が成立するに至る。この間、わずか半年程度。これを受けて2018年4月、種子法は廃止となった。
・種苗法の変遷とUPOV条約
種苗法(1978年、農産種苗法を改名)は植物の新品種の創作に対する保護を定めた法律で、「植物の新たな品種(花や農産物等)の創作をした者は、その新品種を登録することで、植物の新品種を育成する権利(育成者権)を占有することができる」という法律だ。UPOV条約は国際条約で、「種子の登録制度を定め、その種子を無断で自家増殖(採種)することも流通させることも禁止することができる」条約。

種苗法21条
項には「・・育成権者、専用利用権者又は通常利用権者により譲渡された登録品種・・の種苗を用いて収穫物を得、・・更に種苗として用いる場合には、・・・・・育成権者の効力は・・・その更に用いた種苗・・・収穫物・・・加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。」
21条3項には「前項の規定は、農林水産省令で定める栄養繁殖をする植物に属する品種の種苗を用いた場合は、適用しない。」とある。
21条本則で、種子の自家増殖(採種)は原則自由としているが、21条3項で、省令で運用できる例外規定を設け、次々に拡大している。2017年3月には、自家増殖(採種)の品目が82種から289種へと急拡大している。

ロ.遺伝子組み換え作物とF1種子
アメリカでは1996年から遺伝子組み換え作物の商業利用が開始された。現在、アメリカ内では大豆・綿・トウモロコシの9割以上で遺伝子組み換えられ、国内流通加工食品の9割に、遺伝子組換え原材料が使用されている。また、業界最大手の米モンサント社(2018年に独バイエル社が買収)は遺伝子工学で1年しか発芽しない種子(F1種子)を作り、その種子が自社製品の農薬だけに耐性を持つように遺伝子を組み替えた。他の農薬を使うと枯れてしまうため、1度この種子を使った農家は、以後同社の種子と農薬を買い続けることになる。この種子の特許を持った企業がアメリカ国内を始め、インド、イラク、アルゼンチン、メキシコ、ブラジル、オーストラリアなどの国々の農業を次々に手にいれていった。

(3)「規制緩和・民間参入」の法律改正がラッシュ
2018年、大変重要法案がわずかな審議で国会を通過した。この動きはTPP交渉と連動したする動きで、規制緩和と民間参入というお題目で、グローバル企業に国内産業を売り渡すことにつながっていく。以下にその動きを追っていく。
イ.水道法改正
2018年12月16日制立。同年12月12日公布。改正点は、水道施設運営権を設定して民間企業による水道施設運営等事業を可能にした。これはコンセッション方式といって、契約した民間事業者に数十年の期間で、水道料金の徴収を含めた水道施設の運営権を業務委託する方式だ。いわゆるサブコンが施設運営権を得ることになる。水道民営化への第一歩となる。
諸外国ではどうだろう。1980年代から水道民営化が始まったが、2000年~2015年の間に再び公営に戻している。水道料金高騰、劣悪な運営、人員削減によるサービスの低下などが理由である。世界37ヶ国235都市に及んでいる。

ロ.漁業法改正
2018年12月8日、約70年ぶりに改正法が成立した。漁業権制度を抜本的に見直し、民間企業の新規参入を促すほか、沿岸や養殖の漁業権を付与する際に、地元の漁協や漁業者を優先する規定が廃止される。公布から2年以内に施行することになる。つまり、漁協というある意味でセイフティネットを解体して、漁業権を企業に明け渡すのである。 水道法改正と同じ流れだ。

ハ.新法・森林経営管理法
2018年6月に法が成立。2019年4月1日より施行自治体が森林を所有する住民の経営状況をチェックして、「きちんと管理する気がない」とみなされたら、どこかの企業に委託してその森林を伐採できるようにする。市町村と知事の決定は所有者の意思よりも優先する。樹齢55年以上のものは全て伐採をできる。ここには長期計画の植林・造林計画がない。バイオマス発電や合板用の低級木材に活用するためだ。伐採費用は森林環境税(国民一人につき100円)で賄える。災害大国では森林の保水機能が防波堤の役割も果たしているのだが、唯々、ビジネスの商品としてしか見られていない貧困政策である。

二.出入国管理法(入管法)改正
2018年12月に法成立、2019年4月1日施行。新たな在留資格「特定技能1号」「2号」で介護や建設など14業種を検討の対象とし、5年間で最大約34万5千人の受け入れを見込んでいる。労働人口の減少対策への切り札とされているが、これまで技能実習生という制度で、外国人労働者を低賃金・無権利で働かせてきたことへの反省と対策はない。

ホ.新法・カジノ法(カジノを中心とした 統合型リゾート法)
日本人客からは入場料として1回6000円を徴収し、事業者のカジノは収入の30%を納付金として国と立地自治体に納める。観光や地域経済の振興などに充てる。ギャンブル依存症やマネーロンダリング(資金洗浄)への対策も入っている。刑法は原則として賭博を禁じているが、政府は「観光先進国」実現の目玉としている 。 これも詳細は省政令に白紙一任で、国会での議論放棄である。

(4)世界貿易の流れ
第2次世界大戦終了後、二度と戦争を起こさないために、金融、経済と貿易を国際的に管理する構想が生まれた。IMF(通貨の安定)、IBRD(国際復興開発銀行)、ITO(国際貿易機関)である。しかし、アメリカは貿易を規制されることを好まずITOは流産した。
1947年にGATTが誕生し、ケネディラウンド、東京ラウンドで工業製品の関税引き下げ交渉が行われ、1994年のウルグァイラウンドでは農産物の自由化が焦点となった。さらに、投資・サービス・知的所有権に関する一般協定が結ばれた。最終的に、GATT(最終的に128ヵ国)を改組してWTOの設立が決まった。
1995年にWTOが誕生(2019年現在、164ヵ国)し、GATTと同じスイスのジュネーブに本部が置かれた。ドーハラウンド(2001年よりカタールのドーハで開催)では、非関税障壁、サービス、技術などがテーマになったが、容易にまとまらなくなってきた。
世界貿易の枠組みが破綻する中で、地域的自由貿易の協定が誕生した。1994年、アメリカ主導でのアメリカ、カナダ、メキシコと3国NAFTA(北米自由貿易協定)である。 アメリカは2国間のFTA(自由貿易協定)を次々に結び、2012年には韓国とFTAを結び、20ヶ国にもなった。この流れを更に拡大させたのが、TPP、TTIP、RCEP、日本EU経済連携協定、TiSAだ。TPP交渉は6年に渡り行われ、日本は2016年12月6日にTPPを批准した。一方、アメリカはトランプ大統領がTPP離脱を表明した。トランプ大統領が保護主義に走ったといわれているが、その背景は市民の力である。TPP反対の世論が高まり、大統領選前の世論調査で反対が78%にも達し、候補者全員がTPPに反対せざるを得なくなった。大統領候補者のバーニ―・サンダースはTPP反対を前面に打ち出し、躍進したのである

(5)多国籍企業とタックスヘイブン
多国籍企業とは『海外拠点を世界各地に設け、グローバルな活動を行う企業』を指す。2001年時点で、すでに世界資産の25%はわずか300の多国籍企業で占められ、その売り上げは世界貿易の2/3、世界産出額の1/3を占めている。世界の金持ちランキング(2016年)では、1位アメリカ、2位中国、3位日本、4位ドイツ、5位イギリスと国家が続き、21位にアップル、23位にグーグル、29位にマイクロソフト、トヨタは80位、上位100のうち45が企業である。恐るべき大企業パワーである。
こうした多国籍企業は世界中で事業を展開し、きわめて低コストで商品や製品を製造し、原価よりはるかに高い価格で売り、大きな利潤を得ている。結果として、世界中で貧困を助長し、格差を拡大し、環境を破壊している。得た利益はタックス・ヘイブン(租税回避地)に移し、税金逃れを行っている。また、法律や規制が緩い国で、一般金融市場では禁止されている空売りを繰り返し、富を築くのである。
タックス・ヘイブンというとイギリス領ケイマン諸島やヴァージン諸島といわれているが、最大のタックス・ヘイブンはロンドンのシティ、二番目がマンハッタンである。スターバックス、アップル、グーグル、アマゾンなど名だたる企業も利用している。国際NGOのタックス・ジャスティス・ネットワークによるとタックスヘイブンに秘匿されている金額は個人資産だけでも2,310兆円~3,520兆円といわれている。日本の国家予算が100兆円だから約30倍である。東京証券取引所に上場している時価総額上位50社のうち45社が子会社をタックス・ヘイブンに持っているという。仮にタックス・ヘイブンに課税をし、企業や富裕層から取ることができれば、消費税など不要なのである。これほどの不正義はない。
このタックスヘイブンを明らかにしたのはたのは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)で、パナマの法律事務所から漏えいしたものを公表した。

(6)ISDS
ISDS(投資家対国家の紛争解決制度)は「投資家が投資先の国家の政策によって被害を受けた場合に、その国家を第3者である仲裁裁判所に訴えることができる仕組みだ。事例で説明しよう 。
1.エクアドルでアメリカの石油メジャー・テキサコ社(後にシェプロン社に買収された)がアマゾン川に汚染物質を不法投棄し3万人の流域住民に健康被害が発生した 。
2.住民らが自国とアメリカに訴訟を起こし、アメリカの裁判ではエクアドルで裁判すべきと決定した 。
3.エクアドルの最高裁判所は2012年に95憶ドルの賠償金を課した。
4.テキサコ社から引き継いだシェプロン社はオランダハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)へ無効を提訴した。
5.仲裁パネルはエクアドル政府に賠償金支払い請求判決の執行停止を命じた。
事例のように、仲裁裁判所は大企業よりの裁定で、被害者の損害を認めようとしない。また、仲裁裁判所は1審制で、上級審がないとんでもない裁判所である。世界のISDS訴訟はこれまで696件に達し、107ヶ国が提訴された。2015年が一番多い。(2016年まで)これがISDSの実態だ

(7)総括
貿易問題の分野は多岐に渡っていてこのウェブサイトだけでは説明しきれない。是非まとまった本を一読してほしい。分かったことは、貿易交渉がまさに現在進行形だということ。農業だけでなくサービス・金融を含め、あらゆる産業が対象になっていること。その貿易交渉(TPP)は秘密交渉になっている。しかし、政財が一体化しているアメリカの通商代表部(USTR)には「貿易アドバイザー」という制度があり、参加した業界団体が自由に文書を見ることができるのである。
日本では交渉実体はメディアに流れてこない。国民は知らされないのである。交渉に参加している極一部の政治家と官僚には箝口令が敷かれている。国民生活にとって重要なテーマであるにも関わらずである。これほど非民主的で反人民的な仕組みはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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